縫合する家
先祖から代々受け継がれた建物は場当たり的に幾度も増改築が繰り返されてきた。
複雑に絡み合いながら、ぎりぎりのバランスをもった建物はアノニマスにデザインされた魅力を持っている。
家を住みつぎたいとう思いの一方で、日が入らず暗いこと、雨漏りや構造的な不安を解消したいというのが施主の希望である。我々は、空間・構造・環境が分断されてしまった建物を一つへと「縫合」することを目指した。
空間の縫合:活用されていない中央部を基点に各室を繋ぎ合わせる
構造の縫合:分断され、構造的合理性を欠いたフレームを貫により繋ぎ合わせる
環境の縫合:屋根と壁の取り合いが複雑化した部分の補修を兼ね開口を設置し、光・風を繋ぎ合わせる
従来の筋交や構造用合板といった面的な補強は視線・動線・環境的要素を遮るのに対し、それらを通す透過性をもった制震の機能を備えた貫を採用することで、空間・構造・環境の縫合が実現される。
また貫が建物中央部を基点に各スペースを繋ぎながら、室用途に対応した機能をもち、照明や電気配線、カーテンや本棚、植栽、飾り絵など生活を支えるモノの拠り所となる。住まい手や状況とともに使われ方が更新され、暮らしに寄り添う「柔らかい構造」は生活の中に溶け込みながら安心を与え次世代へと受け継がれていく。